UP 2013.7.1 ISH
川上ダム及び比奈知ダム現場訪問
■日時:2013.6.28(金)
     7:50〜17:30 天気 曇
■場所:川上ダム建設所及び比奈知ダム
■内容:「淀川水系における川上ダムの位置づけ」を学習
■出席:環境科42名
1.はじめに
 4班では本年度は「淀川水系をたずねて」をメインテーマとして学習と現地探索を行うこととした。今回は第3回の行事として三重県にある川上ダム建設予定地と比奈知ダムの見学を行った。いずれのダムも木津川の源流である。見学の参加者42名。遠隔地のためバスを利用した。

川上ダム建設予定地

比奈知ダム全景
2.川上ダム予定地の見学
 川上ダムは昭和42年に建設が計画され調査工事が始まった。平成4年に建設所が設置された。その後地元との補償交渉が妥結、付替県道の工事を開始、平成16年に地元民の離村が始まった。平成23年には仮排水路トンネルが完成した。順調に行けばすでにダムは完成しているはずである。それがいまだにダム本体の工事がいつ始まるのかまったくめどがたっていない。なぜか。かつて田中角栄元首相が列島改造論を称えた時期には、日本国中が建設工事に沸き立っていた。道路、鉄道、工場がつぎつぎに建設された。
経済は毎年右肩上がりに上昇した。だが、やがて無理な開発にはさまざまな齟齬が生じた。各地に公害問題が発生、地域により大きな経済格差が生じた。やがて背伸びした経済は破綻しバブルとなってはじけた。同時に国民の間に環境問題に対する意識が急激に盛り上がってきた。国交省[当時は建設省]が計画していた多くのダムが建設見直しを要求された。ダムは本当に必要なのか。ダムは周囲に環境破壊を及ぼしているだけの存在ではないか。おまけにダムの建設には多大の費用がかかる。費用はすべて税金である。本当に必要性がないならばダムの建設は見直すべきだと、という意見が国民から沸きあがってきた。このため、さすがの政府も計画の見直しを迫られた。その後、建設が計画された多くのダム建設が凍結された。凍結という言葉は便利な言葉でどういう意味にもとれる。中止という言葉ならもう工事はできない。凍結には今は都合が悪いので建設しないが時期が来れば工事を再開するぞという意志が汲み取れる。いずれにしても、凍結によって関西でも大多数のダムの建設がストップした。川上ダムもその中の一つである。
 凍結といっても上に述べたように、川上ダムも必要な工事が大分進んでいる。調査工事、現地測量、地質調査のためのボーリング工事、付替道路の設置、仮排水路の建設などの工事はすでに完了している。さらに地元に居住していた農民に対する補償交渉も完了している。建設に要する多くの費用がすでに支出されている。工事の中止は簡単であるが、中止すれば今まで投資した費用が無駄に終わる恐れがある。現地の係員の説明にあったように川上ダムには多くの役目がある。ダムの弊害も考える必要があるが、少なくとも川上ダムについては洪水防止の一つの目的を考えてもこの際、建設を促進すべきではないかと考える。係員の説明後、ダム建設予定地を見学した。谷の下に小さな仮排水路の入口(呑口)が見えるだけである。環境省の出先機関は環境アセスメンをどう評価しているのか。発電所やダムなどの大工事の前には環境影響評価書、いわゆる環境アセスメントを環境省に提出しなければならない。調査項目は多岐にわたっており、多くの分野の専門家の協力のもとに作成しなければならない。建設に伴い影響を受ける動物たとえばオオサンショウウオなどの扱いをどうするのかということも具体的に書かなければならない。建設にともないオオサンショウウオが当該地で絶滅する危惧があると考えられれば建設は認められない。環境省は国交省にどのような助言を与えているのか気になった。

川上ダム建設所

建設所事務所の横断幕

担当者からの説明


現地で説明を受ける

説明

保護生物の排卵及び養殖実験池見学

3.比奈知ダムの見学
 川上ダム建設予定地から比奈知ダムへバスで移動。こちらは昭和47年に建設開始、平成11年に完成した、多目的の重力式コンクリートダムである。総工費は950億円。地元からの要請もあったらしく建設はスムーズに進んだ。総貯水量は2080万立米でダムとしては中型の規模である。係員の説明後、ダムの内部も見学できた。近くには青蓮寺ダムがある。これらのダムが連携して洪水調整などをしていることが分かった。とくにダムに堆積した土砂の除去には周辺ダムとの連携プレイが絶対に必要であることが分かる。ダム事務所係員の協力もあって見学も円滑に完了、大阪への帰着も予定より1時間も早かった。



比奈知ダムに到着

比奈知ダム管理所

野生のお猿さんがお出迎え


比奈知ダム堰堤

ダム内部見学

ダム内部気温は年間ほぼ一定


外気温、水圧による変形を計測の説明パネル

展望室内で説明を聴く

発電機室からの放水


4.おわりに
 昭和44年、私は比奈知ダム下流の高山ダムの発電所の竣工式にいた。出席したのではなく竣工式の世話係りとして働いたのである。比奈知と同じく高山も多目的ダムである。高山でも小さな発電所を併設した。竣工式の後、近くの月ヶ瀬梅林を見学した。ちょうど梅の季節で山の頂上から一面に咲いた白梅を眺めたことをいまでも鮮明に記憶している。高山ダムは京都府相楽郡南山城村にある。
さらに平成6年ごろ、滋賀県北部の丹生ダム建設現場を見学したことを思い出した。丹生ダムは完成すれば日本第2の巨大なダムになるはずだった。このダムも建設途上で凍結された。ちょうど近くの町で同じような仕事をしていた私は後学のためだと思い、真夏の山中に一人で車で入った。山道の真ん中に50センチほどの雑草が生い茂りその雑草を踏み込んで進む。両サイドから木の枝がぱさぱさと車に当たる。やがて道の脇に廃墟となった民家が並んでいるのが見えた。障れば壊れそうな古い雨戸がはめられ、戸板が入口に打ちつけられている。背丈ほどの高さの雑草が入口近くまで押し寄せている。
テレビで廃墟になったゴーストタウンを何度も見たことがあるが、現場を見たのは初めてだった。まさに鬼気がせまる思いがしたことを覚えている。

文/長、写真/小林・菊池
  企画 /須崎  


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